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(20)

D 様


秋明菊が敷地の片隅で花開きました。
ピンクの花弁は秋にはそぐわない可憐さで、私の視線を引き付けました。
それは,柔らかな陽差しを集めたような暖かさで・・・ 昨日、私はしばしその前にしゃがんでいたのでした。
何も考えずに・・・。


D様ー。
4日前、私は右の上腕部に注射痕があるのに気が付きました。
朝、腕をさすった時、独特の痛みがあったのです。確認すると注射痕でした。
赤黒い痣に針を刺した痕・・・。
それは独特の形状でした。6~7ミリの間隔の4つの針の痕 - その点を結べば四角形になります。

私は夫にそれを見せました。
「何だい、それ・・?」
夫は絶句しました。規則的な四角形の針の痕に、「虫に食われたのだ」という、いつもの主張を拒まれたのです。夫は黙り込みました。

(このような痕跡を残す注射針があるかどうかは分かりません。注射を打った者が、その形で注射液を少しずつ注入したことは考えられます。何より、腕に残る赤黒いアザと、押した時に感じる痛みは注射そのものです。)


このところ戸締りは入念にしていました。
家はどの部屋にも雨戸が付いていて、私は就寝前に必ずそれを閉めています。

以前、閉めた後で確認した際、戸と戸の間にわずかな隙間ができることが分かりました。戸を外そうと思えば、その隙間を動かしながら、外すことが出来ます。雨戸の一箇所に簡易な錠が付いているのですが、ほとんど役立っていない状態でした。

その後、私は雨戸の間に隙間を作らないようにしました。
毎夜、戸の間にガムテープを貼るのです。居間の雨戸は合計6枚ありますので、4ヶ所の隙間を貼ることになります。そして、雨戸を貼った後は、内側のサッシ戸にもー。

その後、私の部屋の窓、裏口のドア、洗面所の窓などにもガムテープを貼ります。
完璧ではありませんが、外から戸を外されないための措置です。無理に外した場合は、侵入の痕跡が残るはずです。

当初、夫は不機嫌でした。貼ったり、剥がしたりで、戸が汚くなってしまうからでした。
実際、テープの痕はなかなか取れず、戸は汚くなってしまいました。
しかし、私が示す、頻繁な住居侵入の痕跡は、しだいに彼の口をつぐませました。

しかも、そうして入念に貼ったガムテープが、朝になると剥がれかかっている時があります。
ゆるゆるになって、戸の間に隙間が出来ているのです。
ある朝、私は夫にそれを見せました。

夫の思考は、いつもの回路に入り込みました。
「何かの関係でそうなるんじゃないか? 湿度とか・・。」
夫は語尾を濁らせました。そうは言ったものの、自分でも自信がないのです。

湿度が原因であるなら、貼ったテープの全部がそういう状態になるはずです。
隙間の一箇所だけというのは理にかないません。
誰かが戸を開けようとした、あるいは、実際に開けた ー そう考えざるを得ません。

そして、4日前に見つけた注射痕・・・。
注射が、そのすぐ前夜に打たれたものかどうかは、定かではありません。気が付かなかったということも考えられます。というのは、私は今、毎日は入浴していません。週に2~3度くらいです。入浴しない日はシャワーを浴びることもありますが、ほんの短時間です。

以前は毎日欠かさずに、1時間もかけて体を洗っていましたが、昨秋から、入浴回数は極端に減りました。
ひどい時は、2週間も入浴しない時期がありました。
理由は以前の手紙に書いたとおりです。

昨年12月ー。
私があまりにも入浴しないので、夫が心配して、町内の温泉に行くようにと勧めてくれました。クアハウスYは、町が運営する施設で、サウナやプールが併設されています。
私はサウナが好きで、以前はプールと共によく利用していたのですが、その頃にはほとんど行くことがなくなっていました。


久しぶりの温泉でした。
浴室に入り、並んでいるシャワーのひとつを手に取りました。それぞれに鏡が付いていて、その前にプラスチックの浴用椅子が置いてあります。
私は、簡単にシャワーで体を流し、その椅子に座りました。
その時、太ももに青黒いアザがあるのに気が付きました。膝から20センチほど上のところです。
良く見ると1ヶ所だけではありませんでした。両側に3~4ヶ所づつあるのです。
赤みを帯びているものや、消えかかって黄色になっているものもありました。腕も同様でした。やはり、数ヶ所ー。

注射痕でした・・・。

私は全身から血の気が引きました。
めまいが襲い、椅子に座ったまま頭を垂らし、動けませんでした。
しばらくそうしていたと思います。

カタンと音がしました。
ハッとして周りを見ると、隣に座った中年女性が不審げに私を見ていました。
私はさりげなさを装い、シャワーを掴むと、体に勢いよく湯をかけ始めました。
かけ続ければ、その注射痕が消えるとでもいうように・・・。


D様、私は今までにかなりの数の注射をされています。
以前の注射痕は消えましたが、メスの痕は、まだ薄く残っています。

何の注射なのか・・・?
チリチリと痺れるようになった手足の先、麻痺したようにこわばる手、細い糸くずのように体のあちこちに浮き出てきた血管、異常な肩こりー。
D様、注射液はジワジワと私の体を蝕んでいくのでしょうか・・?


その前日のことー。
私は、心臓が急に自己主張を始めたような、妙な動きすることを感じていました。
ただ椅子に座ってテレビを観ているだけなのに、急に激しい動きをするのです。
テレビは、リラックスできる番組を観るようにしていますので、精神的にもリラックスした状態の時です。
しかし、体の中で心臓だけが、暴れているような息苦しい感覚ー。

私は心臓に異常はなく、初めてのことでした。
「急にどうしたのだろう・・・?」
私は「食べ物になにか混入されたのではー」と疑いました。
(この一年余りの間、何につけても疑心暗鬼になっています。)
しかし、夫も同じものを飲食していますが、そんな症状はないようでした。

その日、心臓は何度かそのような状態になりました。
私はそのたびにベッドで横になっていたのでした。
そして、翌日、注射痕に気付いたのです。
「これだったのか・・・?」

D様、注射は、狭心症を引き起こす作用のものだったのではないでしょうか?
現に、その症状はその日だけでした・・・。

被害者には分かりるのです。
この犯罪の悪質さは、人の通常の想像を遥かに超えていることが・・・。


さて、前回の続きを書くことにします。
この町の特殊性ー。

Y町は、太平洋に面した人口1万3千ほどの小さな町です。
私たちがこの町に住み始めて間もなくー。
私は、警察署の電光看板に「極左テロを根絶」と表示されているのを見て、可笑しくなりました。
こんな田舎の町には、そぐわないスローガンだと思ったのです。
「何とまあ、前時代的な・・・」と思わず笑ってしまいました。

しかし、その後、何度か見ているうちに思い当たりました。
今度は、自分の鈍さに苦笑することになりました・・・。
それはY警察署におけるKの重要な任務でした。

この町は、原子力の町なのです。

Y町の経済は原子力発電に依存しています。原子力を抜きにしては、町の経済は成り立ちません。
町の勤労者のかなりの割合が、発電所に関わる仕事をしています。

電力会社の社員はもとより、定期的に行われる点検整備時の作業員や派遣社員、運送関係者、メンテナンスの為の部品会社、環境調査会社、作業員用のアパートや下宿業、飲食店、日用品の販売店、遊技場・・・「原子力」に依存している仕事は多岐にわたります。

電力会社からの給付金で建てられた町内の公共施設は、田舎町にはそぐわない豪華さです。
建設業者も、発電所の恩恵を受けていると言えるでしょう。

町の予算は、毎年、電力会社から支給される立地給付金が大切な財源になっています。
また、町内の各世帯には毎年、電気料金の一部が割り戻されていて、僅かながらも家計を潤しています。
この町の経済は、原子力発電所を抜きにしては成り立たないのです。

(立地給付金は年数に期限があるようで、その期限が過ぎれば、打ち切られるか、減額されるようですがー。)

原子力発電は国策として推進している産業ですから、その土台は磐石です。代替エネルギーが確立されない限り、衰退することはないでしょう。


さて、「極左テロの根絶」ですがー。
経済を発電所に依存しているこの町では、原子力反対を唱える人はごく少数派です。
時おり、手書きのチラシが新聞に入ってきますが、その活動内容は「細々とー」といった表現が妥当だと思います。

7,8年前、電力会社が発電所内の事故を隠蔽していたことが発覚しました。県内のマスメディアが連日大きく取り上げたのですが、反対運動が町民に波及するということはありませんでした。この町には、「反対」の主張を発する自由な空気と、それを受け止める寛容な雰囲気はないようです。

私自身も今まで「原子力反対」の声を上げたことはありません。代替エネルギーがない限り、現状を是認するしかないと思っています。ただ、国が本気で代替エネルギーの確立を推進していけば、原子力発電の割合は縮小していけると思います。

私は、原子力反対の運動には無関心でした。しかし、反対を主張する自由は保障されなければならないと思っています。それは憲法に謳われている国民の権利なのですから ー 。
反対運動をする人たちは合法的に活動していることは確かです。今までに不法、不穏なことをしたなどとは聞いたことがありません。
ましてや、テロを企てる者などー。

また、発電所を取り巻く厳重な警備は、テロの危険性を限りなくゼロに近いものにしています。
つまり、「極左テロの根絶」のスローガンは、現実に起こり得るはずもないことを想定し、その対策に動いているということです。その為の予算も少なくないはずです。

それは一体何に使われているのでしょう?

Y町の人口は多くはなく、世帯数にすれば、なお少なくなります。
原子力業務に携わる人に限らず、この町に住む者はすべての人々は、Kから詳細に身元や行動の調査されているのは想像に難くありません。

しかし、都会と違い人口の流動もそれほどはありません。この組織の全国規模のネットワークを鑑みれば、流入者のデータを取るのに苦労することはないと思います。つまり、お金も時間もそうはかからないのです。

また、町は治安を守る為、さまざまな面で統制が進んでいます。
警察、役場、各種団体、消防、病院、郵便局、商工会、町内会、PTA・・警察を中心として、住民同士の監視や協力体制が確立されてるのです。
体系化された組織は「ことが起きれば」迅速に機能することでしょう。

しかし、「こと」が起きることはまずありません。
組織体系は、常に動かしていなければ機能が錆びてしまいます
組織を維持していくためには、常に動かしている必要があるのです・・・。
そして、そのための予算は豊富にあります。それは必ず使わなければなりません。

ターゲットが必要なのです。

これはこの町に限ったことではありません。
この組織犯罪の被害者が、全国に及んでいることを鑑みれば、他の地域も大同小異なのでしょう。
しかし、このY町が原子力の町という特殊性は、この犯罪のバックグラウンドを顕著に浮かび上がらせていると思います・・・。


今、被害者が各地で声を上げています。
そして、それを精神異常者の妄想だと躍起になって否定する者たち ー 。
しかし、この犯罪を隠しおおせる閾値は、限界に近くなっていると思います。
暴かれる日は必ず来るでしょう。
D様、私はそれを信じています。

* * * * *

D様、私たちがこの家に住むようになった4年前、町内のある男と話をする必要がありました。
その男は、私たちのある問いに、不可解なことを言いました・・・。
それを次回の手紙に書きたいと思います。

どこからか金木犀の香りがしています。
秋の主役たちは、次から次に登場して、その存在をアピールしてきます。
この季節を楽しみたいと思います。.
お体を大切に ー 。


                                               2009.10.1  
                                                      万 留 子



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