(44)
D 様
今日のこの地は雨・・・。
シルバーグレーの空から、微小な水の粒が落ちています。
時おり動く木々の葉が、微かな風の存在を気付かせてくれました。
この町を覆う、冷たい空気、そして水滴。
遠くから聞こえる車の音・・・鳥の鳴き声・・・。
冬が行くことを躊躇っているかのような、寒く静かな午後 ー 。
私はあなたへの手紙を書いています。
D様 ー 。
今日は早速、前回の続きを書かせて頂きます。
一昨年の3月でした・・・。
夫の知人で、隣村に住むOさんが、夫を訪ねて来ました。
Oさんには以前、夫の仕事に協力して貰ったことがありました。
この地域のことを熟知しているということで、知恵を貸して頂いたのです。
それ以来、よく我が家を訪れ、夫と雑談に興じるという仲でした。
歳は70代後半 ー ですが、何ごとにも積極的な人です。
その日、Oさんは50代半ばの男性を伴っていました。
「これは、私の甥っ子です。村議会の議員をやってたんだけど、今は農業に従事してます。」
Oさんはソファーに座るなり、傍らの男性を夫に紹介しました。
彼はEと名乗りました・・・。
Eさんは、Oさんの傍で何か落ち着きがなく、オドオドとした様子でした。
表情には生気がありません・・・。
「実は、Rさんのことで ー 。」
Oさんが、口を開きました。
「Rのことで・・・?」
夫は、ただならぬE氏の様子と、突然出てきたRという名に怪訝そうでした。
Rさんとは、夫の知人です。
夫とは、昔に人を介して知り合ったというだけで、特別な関係は何もありません。
6年ほど前に突然、関東のT県から、この地方に来て住み始めたのです。
歳は50代後半、仕事は「ブローカー」と言ったところでしょうか ー 。
すさんだ雰囲気を漂わせている男で、正直言って、私は嫌いな人間でした。
(実は、このRの為に、私の会社がとんでもない損害を受けたことがあります。
それは、いずれかの機会に書きたいと思います。)
Rは、この町に住むようになって以来、夫のところに、時おり、顔を見せるようになりました・・・。
「R・・? そう言えば、このところ音沙汰ないけど ー Rがどうかしたの?」
夫が、戸惑った様子で訊きました。
「このEが、Rさんに呼び出されたんですよ。F市まで来いって ー 。」
Oさんが言いました。i
「F市までって・・・何で?」
夫は事情が呑み込めないまま、Oさんに尋ねました。
県都のF市は、この町から車で2時間近くかかります。
「殺されるかも知れない・・・このままでは、俺、殺されます。」
Eさんは、小刻みに震えていました。
「いいから・・・」
Oさんは、傍らのEさんを制しました・・・。
「殺されるって・・・そんな馬鹿な? 何で?」
夫は訳が分からず、頭が混乱したようでした。
Oさんが、説明を始めました・・・。
そもそもの発端は ー Eさんの娘さんが起こした、自動車事故でした。
Eさんの娘さんは、Y町からI村に向かう途中、車をガードレールに衝突させてしまったのです。
自分の不注意による自損事故でした。
事故により、車の前部は破損してしまったのでした。
幸い車は動く状態でしたので、家までは戻れました。
自損事故ですし、自分の車への保険には入っていませんでしたので、修理代は自分持ちになります。
Eさんは当然そうするつもりでした・・・。
しかし、この事故がRの知るところとなりました。
Rは当時、Eさん宅に頻繁に出入りしていたのです、
「大丈夫。修理代なんて払うことないから ー 。俺に任せてよ。」
Rは、Eさんにそう言うのでした。
Eさんは、深く考えもせずに、Rに任せることにしました・・・。
修理代なんて払うことない・・・と言う、Rのやり方はこうでした。
まず、自動車保険に入っている、知り合いの女性を引き込みました。
「知人が事故を起こして困ってる・・・。助けてやりたいんだけど、協力して貰えないかな・・・。」
Rは、お礼はするからと、強引に頼み込んだのでした。
女性は「人が困っているのなら・・・」と、つい協力を承知してしまいました。
Rが書いた筋書きは ー 、
その協力者の女性が運転していた車が、不注意から対向車線にはみ出してしまった。
その時、反対側からた来た車(Eさんの娘が運転)が、それを避けようとしてガードレールに衝突した・・・というものです。
衝突の原因は、協力者の女性側にあることになります。
保険会社は、Eさんの娘さんに車の修理代を出さなければなりません。
Rは、保険会社から修理代を出させることに成功しました。
協力者の女性は、お礼として、Rから1万円を渡されたと言います。
そもそもこの女性は、Rの巧みな手練手管にはまってしまった ー というのが本当のところなのだと思います。
「金目当て」ではなかったにせよ ー 1万円とは・・・。
また、保険を使えば、次の契約から保険料がアップします。
それを鑑みれば、彼女は、大きな損をしてしまいました。
でも、それにも増して大きいのは「法を犯す」という過ちを犯したこと - 。
彼女は浅はかでした・・・。
Eさんの娘さんの車は、修理されて戻って来ました。
しかし、代金は全額を支払って貰ったわけではありませんでした。
結局、かなりの金額を払ったと言います。
D様 ー。
つまりこれは保険金詐欺です。
Rは、Eさんの娘さんの事故に乗じて、「金儲け」をしたのでした。
R以外、得をした者は誰も誰もいません。
更にその後 ー 。
Rは、Eさんに対し、金をせびるようになりました。
「スジの悪い者に知られた。口止め料がいる」「相手方と話をつける為、金が必要だ。」
「力のある人に解決を頼むから ー 」・・・理由は様々ですが、そのたびにEさんは金を出し続けました。
Eさんには弱味がありました。
Rの巧みなペースにはまってしまったとはいえ、娘さんの自損事故を偽装してしまったのですから・・。
Rに言われるがまま、金を渡すしかなかったのです。
車の修理代よりもはるかに多額な金を・・・。
その頃から、Eさんは精神的に不安定になって行きました。
常に何かに怯えるようになったのです。
「殺される・・・」と怯えるようになったのです。
そして、その日 ー 。
Rから、F市に来るようにと言われ、極度の不安状態になりました。
Eさんは、伯父のOさんを頼り、Rを知っている夫を訪ねて来たのでした。
夫と私は、話の内容に驚きました・・・。
私は、Rに対する嫌悪が極限に達しました。
夫がRに関わることはやめてもらいたい・・・私は心の中でそう願いました。
しかし、夫は頼まれると放っては置けない人なのです。
夫が、Rに電話をしてみることになりました・・・。
「Eさんが、伯父さんと一緒にウチに来てるんだけど、F市には行かないと言ってる。
取り合えず、用件だけ電話で訊いてくれということだから、話して貰えないか・・・。」
そして、夫は「Eさんは、あんたに『殺される』って言ってるよ。」と、やや冗談めかして、付け加えました。
Rは慌てたようでした。
「ちょっと待って下さい。私は今、F市にいるんで、別の者をそちらに行かせます。」
ものの10分もしないうちに、中年の男女二人がやって来ました。
そして、「Rさんが、EさんをF市に呼んだのは・・・云々」と説明したのでした。
結局、Eさんの考えすぎだと言うことになりました。
Eさんは生気のない顔のままで、Oさんと一緒に帰って行きました・・・。
その1週間後 ー 。
私と夫が外出から戻って来ました。
すると、玄関のところに何か置いてありました。
新聞紙に包んだ一升瓶 ー 手作りの「どぶろく」でした・・・。
「誰かな ー ?」
Oさんか、Eさんかもしれない・・・I村は、どぶろく造りに気候が合っているようで、美味しいものが出来るのです。
「この前のお礼としてかな・・・気を使わなくてもいいのにね。」
私はその袋を持ち上げながら、夫に言いました。
「もしかして、Rかも知れないな。以前も持ってきたことがあったじゃないか ー 。」
夫はそう言うのでした。そして、Rに電話してみたのです。
「やっぱり、Rだったよ。『ええ、私です。飲んで下さい。』って ー。」
「フーン・・・毒が入ってないことを祈らなきゃね。」
私はつい、そんな憎まれ口をききました。
しかし、間もなく ー 。
「ええ、私です。飲んで下さい」・・・Rのその嘘は、バレることになりました。
その日から1週間ほど後のこと ー 。
Eさんが自殺・・・自宅の裏庭で首を吊ったのでした・・・。
私たちがその訃報を聞いたのは、その翌日でした。
葬儀は近親者だけでやりたいとのことで、私たちは出席を見合わせました。
葬儀を済ませ、落ち着いた頃・・・Oさんがやって来ました。
「あの後、Eがここに来た時、Sさんが留守じゃなかったらなぁ・・。」
あの後? Eさんがここに来た・・・?
「死ぬ1週間くらい前に、ここに来たはずですよ・・・。
どぶろくが置いてあったでしょ?」
どぶろく・・・?
あれは、Eさんが置いて行ったものだったの・・・?
「もう1回、頼みに行くって・・・。留守だったって、がっかりして帰ってきた・・・」
Eさんは、亡くなる前に夫を訪ねて来たのでした。
ワラをも摑む思いで、何かを相談したかったのでしょう・・・。
夫は呆然とした顔をしていました・・・。
「ええ、私です。飲んで下さい」・・・Rは、ぬけぬけと嘘をついたのでした。
私は、Rへの嫌悪と怒りで、血が逆流するような感覚に捉われました。
Rという男は、一体どこまで腐っているのだろう・・・。
Eさんんは、その後もずっと怯えていたとのことでした。
夫が電話して以来、Rとの接触は無かったというのですが ー 、
それでも彼は怯えていました。
Eさんを怯えさせていたものは何だったのでしょう・・・?
家族は、おかしな言動をするEさんを理解できずに、ノイローゼになったと思い込んでいたようです。
しかし、D様 ー 。
私は今になって思います。
Eさんは、自動車事故の偽装の件だけで、怯えていたのだろうかと・・・。
彼が、必死で相談相手を求めていたことは確かです。
しかし、誰にも理解されず、絶望の中で死んでいった・・・。
この組織犯罪と共通する部分が、僅かながら見えるのです。
この組織犯罪の多くの被害者は、その被害を的確に伝えるすべを知りません。
被害内容を、詳細に語れば語るほど、精神状態が疑われるという構図・・・その中で、もがいている被害者がどれほどいることかー。
インターネット上で、被害を訴えている方々は、「表現力」というツールを持つ数少ない人たちだと思います。
それは、被害者のごく一部に過ぎません。
しかし、それとて、被害の「実態」は表現力の枠を超え、言葉に出来ないまま、灰色の闇に取り残されています。
私などは、そのもどかしさに頭を抱えてしまうことも度々です。
毎年3万人以上が自殺する日本・・・その中には、この組織犯罪の被害者が相当数含まれていると、私は推測しています。
私は、Eさんの死を短絡的に、この組織犯罪と結びつけるつもりはありません。
しかし、たとえ僅かでも、その可能性は否定できないと思います。
それは・・・。
Eさんの死から、2ヶ月くらい経った頃のことです。
私が、Rにある疑念を持った出来事がありました・・・。
その日、Rが突然、夫を訪ねて来ました。
珍しく、付き合っている女性を連れています・・・。
D様 ー 。
この続きを、次回に書きたいと思います。
この肌寒い日はいつまで続くのでしょう?
春が舞台の袖で、出番を待っているのは確かなのに ー 。
いずれにしろ開演のベルは間もなく鳴り響くはず・・・。
ご自愛くださいますよう。
2010.3.25
万 留 子


今日のこの地は雨・・・。
シルバーグレーの空から、微小な水の粒が落ちています。
時おり動く木々の葉が、微かな風の存在を気付かせてくれました。
この町を覆う、冷たい空気、そして水滴。
遠くから聞こえる車の音・・・鳥の鳴き声・・・。
冬が行くことを躊躇っているかのような、寒く静かな午後 ー 。
私はあなたへの手紙を書いています。
D様 ー 。
今日は早速、前回の続きを書かせて頂きます。
一昨年の3月でした・・・。
夫の知人で、隣村に住むOさんが、夫を訪ねて来ました。
Oさんには以前、夫の仕事に協力して貰ったことがありました。
この地域のことを熟知しているということで、知恵を貸して頂いたのです。
それ以来、よく我が家を訪れ、夫と雑談に興じるという仲でした。
歳は70代後半 ー ですが、何ごとにも積極的な人です。
その日、Oさんは50代半ばの男性を伴っていました。
「これは、私の甥っ子です。村議会の議員をやってたんだけど、今は農業に従事してます。」
Oさんはソファーに座るなり、傍らの男性を夫に紹介しました。
彼はEと名乗りました・・・。
Eさんは、Oさんの傍で何か落ち着きがなく、オドオドとした様子でした。
表情には生気がありません・・・。
「実は、Rさんのことで ー 。」
Oさんが、口を開きました。
「Rのことで・・・?」
夫は、ただならぬE氏の様子と、突然出てきたRという名に怪訝そうでした。
Rさんとは、夫の知人です。
夫とは、昔に人を介して知り合ったというだけで、特別な関係は何もありません。
6年ほど前に突然、関東のT県から、この地方に来て住み始めたのです。
歳は50代後半、仕事は「ブローカー」と言ったところでしょうか ー 。
すさんだ雰囲気を漂わせている男で、正直言って、私は嫌いな人間でした。
(実は、このRの為に、私の会社がとんでもない損害を受けたことがあります。
それは、いずれかの機会に書きたいと思います。)
Rは、この町に住むようになって以来、夫のところに、時おり、顔を見せるようになりました・・・。
「R・・? そう言えば、このところ音沙汰ないけど ー Rがどうかしたの?」
夫が、戸惑った様子で訊きました。
「このEが、Rさんに呼び出されたんですよ。F市まで来いって ー 。」
Oさんが言いました。i
「F市までって・・・何で?」
夫は事情が呑み込めないまま、Oさんに尋ねました。
県都のF市は、この町から車で2時間近くかかります。
「殺されるかも知れない・・・このままでは、俺、殺されます。」
Eさんは、小刻みに震えていました。
「いいから・・・」
Oさんは、傍らのEさんを制しました・・・。
「殺されるって・・・そんな馬鹿な? 何で?」
夫は訳が分からず、頭が混乱したようでした。
Oさんが、説明を始めました・・・。
そもそもの発端は ー Eさんの娘さんが起こした、自動車事故でした。
Eさんの娘さんは、Y町からI村に向かう途中、車をガードレールに衝突させてしまったのです。
自分の不注意による自損事故でした。
事故により、車の前部は破損してしまったのでした。
幸い車は動く状態でしたので、家までは戻れました。
自損事故ですし、自分の車への保険には入っていませんでしたので、修理代は自分持ちになります。
Eさんは当然そうするつもりでした・・・。
しかし、この事故がRの知るところとなりました。
Rは当時、Eさん宅に頻繁に出入りしていたのです、
「大丈夫。修理代なんて払うことないから ー 。俺に任せてよ。」
Rは、Eさんにそう言うのでした。
Eさんは、深く考えもせずに、Rに任せることにしました・・・。
修理代なんて払うことない・・・と言う、Rのやり方はこうでした。
まず、自動車保険に入っている、知り合いの女性を引き込みました。
「知人が事故を起こして困ってる・・・。助けてやりたいんだけど、協力して貰えないかな・・・。」
Rは、お礼はするからと、強引に頼み込んだのでした。
女性は「人が困っているのなら・・・」と、つい協力を承知してしまいました。
Rが書いた筋書きは ー 、
その協力者の女性が運転していた車が、不注意から対向車線にはみ出してしまった。
その時、反対側からた来た車(Eさんの娘が運転)が、それを避けようとしてガードレールに衝突した・・・というものです。
衝突の原因は、協力者の女性側にあることになります。
保険会社は、Eさんの娘さんに車の修理代を出さなければなりません。
Rは、保険会社から修理代を出させることに成功しました。
協力者の女性は、お礼として、Rから1万円を渡されたと言います。
そもそもこの女性は、Rの巧みな手練手管にはまってしまった ー というのが本当のところなのだと思います。
「金目当て」ではなかったにせよ ー 1万円とは・・・。
また、保険を使えば、次の契約から保険料がアップします。
それを鑑みれば、彼女は、大きな損をしてしまいました。
でも、それにも増して大きいのは「法を犯す」という過ちを犯したこと - 。
彼女は浅はかでした・・・。
Eさんの娘さんの車は、修理されて戻って来ました。
しかし、代金は全額を支払って貰ったわけではありませんでした。
結局、かなりの金額を払ったと言います。
D様 ー。
つまりこれは保険金詐欺です。
Rは、Eさんの娘さんの事故に乗じて、「金儲け」をしたのでした。
R以外、得をした者は誰も誰もいません。
更にその後 ー 。
Rは、Eさんに対し、金をせびるようになりました。
「スジの悪い者に知られた。口止め料がいる」「相手方と話をつける為、金が必要だ。」
「力のある人に解決を頼むから ー 」・・・理由は様々ですが、そのたびにEさんは金を出し続けました。
Eさんには弱味がありました。
Rの巧みなペースにはまってしまったとはいえ、娘さんの自損事故を偽装してしまったのですから・・。
Rに言われるがまま、金を渡すしかなかったのです。
車の修理代よりもはるかに多額な金を・・・。
その頃から、Eさんは精神的に不安定になって行きました。
常に何かに怯えるようになったのです。
「殺される・・・」と怯えるようになったのです。
そして、その日 ー 。
Rから、F市に来るようにと言われ、極度の不安状態になりました。
Eさんは、伯父のOさんを頼り、Rを知っている夫を訪ねて来たのでした。
夫と私は、話の内容に驚きました・・・。
私は、Rに対する嫌悪が極限に達しました。
夫がRに関わることはやめてもらいたい・・・私は心の中でそう願いました。
しかし、夫は頼まれると放っては置けない人なのです。
夫が、Rに電話をしてみることになりました・・・。
「Eさんが、伯父さんと一緒にウチに来てるんだけど、F市には行かないと言ってる。
取り合えず、用件だけ電話で訊いてくれということだから、話して貰えないか・・・。」
そして、夫は「Eさんは、あんたに『殺される』って言ってるよ。」と、やや冗談めかして、付け加えました。
Rは慌てたようでした。
「ちょっと待って下さい。私は今、F市にいるんで、別の者をそちらに行かせます。」
ものの10分もしないうちに、中年の男女二人がやって来ました。
そして、「Rさんが、EさんをF市に呼んだのは・・・云々」と説明したのでした。
結局、Eさんの考えすぎだと言うことになりました。
Eさんは生気のない顔のままで、Oさんと一緒に帰って行きました・・・。
その1週間後 ー 。
私と夫が外出から戻って来ました。
すると、玄関のところに何か置いてありました。
新聞紙に包んだ一升瓶 ー 手作りの「どぶろく」でした・・・。
「誰かな ー ?」
Oさんか、Eさんかもしれない・・・I村は、どぶろく造りに気候が合っているようで、美味しいものが出来るのです。
「この前のお礼としてかな・・・気を使わなくてもいいのにね。」
私はその袋を持ち上げながら、夫に言いました。
「もしかして、Rかも知れないな。以前も持ってきたことがあったじゃないか ー 。」
夫はそう言うのでした。そして、Rに電話してみたのです。
「やっぱり、Rだったよ。『ええ、私です。飲んで下さい。』って ー。」
「フーン・・・毒が入ってないことを祈らなきゃね。」
私はつい、そんな憎まれ口をききました。
しかし、間もなく ー 。
「ええ、私です。飲んで下さい」・・・Rのその嘘は、バレることになりました。
その日から1週間ほど後のこと ー 。
Eさんが自殺・・・自宅の裏庭で首を吊ったのでした・・・。
私たちがその訃報を聞いたのは、その翌日でした。
葬儀は近親者だけでやりたいとのことで、私たちは出席を見合わせました。
葬儀を済ませ、落ち着いた頃・・・Oさんがやって来ました。
「あの後、Eがここに来た時、Sさんが留守じゃなかったらなぁ・・。」
あの後? Eさんがここに来た・・・?
「死ぬ1週間くらい前に、ここに来たはずですよ・・・。
どぶろくが置いてあったでしょ?」
どぶろく・・・?
あれは、Eさんが置いて行ったものだったの・・・?
「もう1回、頼みに行くって・・・。留守だったって、がっかりして帰ってきた・・・」
Eさんは、亡くなる前に夫を訪ねて来たのでした。
ワラをも摑む思いで、何かを相談したかったのでしょう・・・。
夫は呆然とした顔をしていました・・・。
「ええ、私です。飲んで下さい」・・・Rは、ぬけぬけと嘘をついたのでした。
私は、Rへの嫌悪と怒りで、血が逆流するような感覚に捉われました。
Rという男は、一体どこまで腐っているのだろう・・・。
Eさんんは、その後もずっと怯えていたとのことでした。
夫が電話して以来、Rとの接触は無かったというのですが ー 、
それでも彼は怯えていました。
Eさんを怯えさせていたものは何だったのでしょう・・・?
家族は、おかしな言動をするEさんを理解できずに、ノイローゼになったと思い込んでいたようです。
しかし、D様 ー 。
私は今になって思います。
Eさんは、自動車事故の偽装の件だけで、怯えていたのだろうかと・・・。
彼が、必死で相談相手を求めていたことは確かです。
しかし、誰にも理解されず、絶望の中で死んでいった・・・。
この組織犯罪と共通する部分が、僅かながら見えるのです。
この組織犯罪の多くの被害者は、その被害を的確に伝えるすべを知りません。
被害内容を、詳細に語れば語るほど、精神状態が疑われるという構図・・・その中で、もがいている被害者がどれほどいることかー。
インターネット上で、被害を訴えている方々は、「表現力」というツールを持つ数少ない人たちだと思います。
それは、被害者のごく一部に過ぎません。
しかし、それとて、被害の「実態」は表現力の枠を超え、言葉に出来ないまま、灰色の闇に取り残されています。
私などは、そのもどかしさに頭を抱えてしまうことも度々です。
毎年3万人以上が自殺する日本・・・その中には、この組織犯罪の被害者が相当数含まれていると、私は推測しています。
私は、Eさんの死を短絡的に、この組織犯罪と結びつけるつもりはありません。
しかし、たとえ僅かでも、その可能性は否定できないと思います。
それは・・・。
Eさんの死から、2ヶ月くらい経った頃のことです。
私が、Rにある疑念を持った出来事がありました・・・。
その日、Rが突然、夫を訪ねて来ました。
珍しく、付き合っている女性を連れています・・・。
D様 ー 。
この続きを、次回に書きたいと思います。
この肌寒い日はいつまで続くのでしょう?
春が舞台の袖で、出番を待っているのは確かなのに ー 。
いずれにしろ開演のベルは間もなく鳴り響くはず・・・。
ご自愛くださいますよう。
2010.3.25
万 留 子


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